1999年のこと 8

東京都品川区
東急大井町線 大井町駅
大森海岸や大きな工場がたちならぶ
東京のthe下町。
駅を降りると細い路地が多くあり、
古くからある小さな飲食店や雑貨屋が立ち並ぶ。
ごちゃごちゃしてる街。
でも、どことなく、なつかしく、おちつく。
1年間フラフラしていると
土日の中央競馬だけでは飽き足りず
川崎・大井・船橋・浦和へ通ってしまう。
ナイターの日はまじめに
1レースからパドックみて12レースまで。
ちゃんと真剣に競馬と向き合っていました。
中でも大井競馬場は電車の乗り継ぎも
スムーズに行けたので大好き。
駅前商店街にある丸八って
とんかつ屋が勝った日のご褒美メシ。
あとグレードレース前は
ゲンを担ぐ意味で丸八のとん勝つ食べてから
競馬場へ行ってたりしてた。
無料バスが駅前から出てて1レース目からいくと、
毎回巨人帽をかぶった眼鏡のじいちゃんが
一番前に並んでいて、少し顔おぼえて
もらったぐらいになってた。
名前は知らないし、じいちゃんも、
私のことは「にいちゃん」って呼ぶ。
だけど、勝手にこのじいちゃんの事を
川上さんって心の中で呼んでた。
もちろん由来は、巨人の川上哲治
その日も川上さんは一番前にいた。

12月29日 大井町駅

2日間けっこうデータ調べたり
新聞読んだりした。
その結果大井の2000m
内枠の先行馬有利。
なので先行する内枠の中央勢を買う。
これが結論。
この結論を川上さんにぶつけてみる。
川上さんはニヤっと笑って
「にいちゃん良いとこ、ついてるんだけどな~
文ちゃんの逃げは世界一だよ」って
大井の川上哲治の一言。
この一言が地球滅亡までの日を
左右するとはこの時、誰も知らない・・・

地球滅亡まであと2日
つづく

1999年のこと 7

東京大賞典出走馬確定の新聞の文字。
確かに体に電気が走った!

2万3千円こんな、
はした金もっててもしかたない。
大井で人生を終えよう。
なんで気づかなかった。
まだ俺は負けてない。勝負の途中だ!
出走表を見てみる。
印が集まっているのは、

地方所属馬初の中央GIを勝った
岩手のメイセイオペラ

地元大井の帝王的場文男の快速逃馬
ゴールドヘッド

中央から参戦牝馬横山典弘
ファストフレンド

中央から4連勝中の
ワールドクリーク

中央からダート交流を渡り歩く
オースミジェット

前走イナリコンコルドを破った
マキバスナイパー

アブクマポーロと接戦を重ねてきた船橋
サプライズパワー

などなどさすが地方の一年を締めくくる
東京大賞典
メンバーみただけでワクワクがとまらない!!

どうしよう。悩む。

いいだろう。

伊達に一年間遊んで
暮らしてきたわけではない。
真面目に遊んできたつもりだ。
競馬には毎回全力で取り組んできた。
そこいらのプ一太郎とは違う。
パチンコはしないし、タバコもすわない、
女もいない、遊ぶために
いろんなバイトしてそれを全力投資。

真面目だ。

俺は他人とは違うし、

自信がある。

だが根拠はない。

まぁいい12月29日あと2日。
俺の知識丶浅い経験丶自信
すべて出しつくしてやる。
まってろ大井町

地球滅亡まであと4日
つづく

1999年のこと 6

12月27日 有馬記念から一夜あけ…

昨日はひどかった。全然寝れなかった。
朝5時にコンビニに行きサンスポ購入。
見なきゃいいのにみちゃうよねー。
武豊のコメントがのってた。
「ゴールで右のグラスを
みて交わしたっと 思った。
まさか…
信じられないくやまれます…」 だってさ。
信じられないのはわたくしです。
わずか4センチだとさ。
もうちょっとスペシャルウィーク
頭を押して、いれば…クゥぅぅ…
しびれるコメントを目にして…
悔しさが蘇る。
傷口に塩をパラパラ振りかけられてる感じ…
ズキズキする。
心拍数がまたあがる。

もういい…

ここにきて負けっぱなしだぁ。
地球があと4日で終わるっていうのに…
仕事もなければ彼女もいない…
しかも一文無し…
絵に書いたようなダメダメ人間だ。
どうしょうもない…
あと4日こんな俺に神様はなにをしろと…

このまま部屋に閉じこもったまま…
つまらない終わり方で最後を迎えるのか…
元気があっても
金がなければなにもできんっ!
バイトかなぁ~
しかし、今からバイト探したって
面接とかしてたら来年になっちゃうよ…
ダメだっ!あと4日で地球なくなっちゃう。
だがマジで金がない…

いやっ
まてよ。あるぞっ。
中1の時に買った
「50万円貯まる」の黒い缶の貯金箱が
たしか…
貯金箱を買った当初は
「ヨッシャっ50万ためるぞ」って
ちゃんと500円玉だけ入れてたんだ。
そのうち
「意外と500円玉って回ってこないんだなぁ~
これじゃラチがあかん。
100円玉もいれちまえっ」
みたいな感じになって…さらに
10円や1円 もオッケーみたいな…
あれから6年…
最終的には存在すら忘れ、
ほったらかし…
改めて自分の意志の弱さを痛感…
いくら入ってるのか?見当もつかん。
俺のノアの箱舟になってくれっ!
あまり期待しないで缶切りで
キコキコキコキコ…

やはり500円玉より100円玉
100円玉より10円玉が目立って多い…
一 応重ねてみる…。

500円玉が32枚
100円玉が53枚
50円玉が12枚
10円玉が128枚
5円玉が14枚
1円玉が112枚
あとギザ10が3枚

6年間で占めて 23862円也!!!!
意外とあった…。
郵便局で両替してこよう。
せっかく重ねてたが…各種別々のコンビニの袋に
ぶち込んでクルマで郵便局へ…

少しハズいが袋のまま窓口へ…
「すみませんが
両替お願いしたいんですが…」

窓口のお姉さん嫌な顔一つせず
専用のマシーンへ。

もう21世紀やっ! 速い!
俺があんだけ重ねて数えたものを、
ものの数秒!
最初から数えないで
持ってくればよかった…
でも重ねるの少し楽しかったから~いいやっ

諭吉が2枚と漱石が3枚に変身!
あとはチャラ銭だが軽くなった!
一文無しから這い上がったぞ。
心もとないが…あと4日だし。
郵便局を出て部屋へ戻る。

ベッドに横になり天井を見あげ…
むなしくなる… あと4日どうすんべ。
横にぶんなげてある新聞に
東京大賞典の文字。
体に電気が走った!

地球滅亡まであと4日・・
つづく

1999年のこと 5

1999年有馬記念
心も財布もからっぽになった私は
牛丼をおごってもらい・・
電車代もニートの友人に借りて帰宅の道にいた。
南部線と小田急を乗り継ぎ最寄りの駅へ。
そこから春に万券とった19万円で買った
三角窓の真っ赤なワーゲンで家に帰る。
頭の中で今日の整理がはじまる。

なんでだ一。

地球がなくなるって本気で思ってた。
だから貯金すべてスペシャルウィーク武豊
ぶっこんだ。同着でもいいのにー。
ってか勝ってたし・・・。
くやしすぎる。ってか今日からどうしょう・・
バイトで金貯めたら辞め貯めたら辞めを
一年間繰り返してきた。
だって地球なくなるんだからっと
自分に言い聞かせてきた。
ある種の自己暗示。高校卒業と同時に千葉の
サラブレッド育成牧場に就職。
JRAの厩務員になろうと思ってた。
しかしやっと仕事に慣れ始めた3ヶ月目で
牧場を運営する元会社が倒産。無職に。
そこから栃木の牧場に面接しに行ったけど不採用。
牧場をさがしたら北海道しかなく
飛行機に乗ったことのない私は怯んだ、
オモいっきり怯んだ。
それから始まった自己暗示・・。
とりあえず寝ようそして悪夢を忘れよう

地球滅亡まであと5日 つづく

1999年のこと 4


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オォォぉ…… って
場内の歓声が…
確定のランプが付いた。

掲示板には 一着7番 二着番!???

わけがわかりません
確か7番はグラスワンダー
スペシャルウィークは3番のはずだが…

7がグラスワンダーでっ
3がスペシャルウィーク

一着が7 二着が3

同着でもいいんだよっ!?

あれ……

現実を受け止めることが出来ません…

ウィニングランしてたし…

87万円はっ?

俺の財布はすっかんぴん…

その日の帰り道おごってもらった
吉野家の牛丼の味は
やけにしょっぱかった…

つづく

1999年のこと 3

『豊っいけっいけーっっ!!さっさせさせぇっ!』
場内の熱気が最高潮に達したところがゴール板 !!
ゴール板を2頭並んだまま入選。
勝負は写真判定

本当にきわどいが、後ろから追い込んできた
スペシャルウィークのほうが脚色がいい。
ゴール板を通過した武豊もガッツポーズ!

『間違いない。乗ってる騎手が一番わかるんやっ』

まだ確定していないのに写真判定にもかかわらず
スペシャルウィークが勝ち馬だけが
許されるウィニングランをしている。
天才武豊に30万円。
最終オッズを見てみると2・9倍!
『2倍かって思ってたわっ!87万円やないかっ!
みたかプー太郎ど もっ!
今日はわいのおごりやっ寿司屋から焼き肉屋へ
の朝までハシゴパーティーやっ!』

俺の調子は グングン上昇っ
もはや無敵っ!!!

しかし… 長い写真判定…随分長い判定異例の長さだ…
あまりの長さに場内もざわめいている。
俺のうしろのオッサンが
グラスワンダーが残ってるかっ
同着じゃないのか?』って
一人ごとをつぶやいている…

………まさか…
残ってるわけないやろっ差しきってるわボケがっ
いや百歩譲って同着でもいいっ
わいはスペシャルウィーク
単勝馬券30万持ってるんだから…
ってか、
もはや87万じゃ…ボケっ…
武豊ウィニングランまでしてるんだから
間違いない完全決着やっ
それにG1で 同着なんて見たことないし…
87万円なににつかおうかしら…
って俺の頭を色々な思いが駆け巡る…

オオォォぉ…… って
場内の歓声が…
確定のランプが付いた。

掲示板には 一着7番二着3番!???

わけがわかりません。

つづく

1999年のこと 2

一斉にスタート!!

今年の有馬は14頭立て。
俺にはスペシャルウィークしか
見えないけどね。
そのスペシャルウィークは、
なんとっ最後方から14頭を見ながらの競馬。
好敵手グラスワンダースペシャルウィークから
四頭前に位置どり。

まぁいい

グラスワンダーを見ながら
いわばマークする形でレースを進められる。
流石天才武豊
レースは2500メール。
だいたい2分30秒ぐらいで走りきる。

ペースはゆっくりとした流れ。
ペースがゆっくりとってか遅い。遅すぎる。
一番うしろで大丈夫なのかっ? 焦るわたくし。

ペースがゆっくりなら前々でレースを
進めた 馬が有利なんや。
直線を迎えても前方でゆっ くり走って来たから
十分にスタミナを残してスパートをかけられる…
俺のスペシャルウィークは最後方

『大丈夫なんかい…武豊はん…』
このセリフを何回つぶやいたことか…

第3コーナーのカーブで前にいた
グラスワンダーが遅すぎるペースに
たまらんっと言わんばかりに
まくりぎみにラストスパートをかけ
天才武豊もそれを追いかけるように、
スパートっ7頭ぐらいごぼう抜きっっっ
手応え十分だぁっ

『きたっやはり天才やっ!!』

第4コーナーを曲がり 直線を向いて
グラスワンダーに、
せりかける武豊の左ムチがうなるっ 。
2馬身前のグラスワンダーに、
外側からスペシャルウィーク
さらに内にもう一頭いるが関係ないっ
相手はグラスワンダーのみ
勢いはスペシャルウィークがまさっている。
残り50メートル
グラスワンダーにならんだ!!

首の上げ下げ…
しぶといグラスワンダー
でも勢いは完全に
スペシャルウィークだぁぁぁ~!!

つづく